シネマはホームレスの住処

 とりあえず、仕事をしている。カッとなったり、気分が悪くなったりもするけれど、それって「仕事」をする時はみんな味わっていて、当然のことなんだよなあと改めて思う。

 新宿に行く度に、数人のホームレスが視界に入り、つい彼らについて考えてしまう。赤銅色の顔をして、とにかくうごかなかったり、とにかくわけ分からないことをしゃべり続ける彼ら。百貨店前に並ぶ、大きなブランドのショーウィンドゥのロゴ。シャネルのスペーシーな少女やカルティエのモノクロの豹の前で眠りにつくホームレス。

 正直、働く、ことそれ自体はそこまで苦痛じゃない。でも、良く分からないひとの集団にいると本当に具合が悪くなる。他者は自分にとって都合のいい存在ではない。当たり前のこと。でも、とにかく俺は大人数でよくわからない言葉で会話をするのが非常に苦痛で、こんな言語で会話してまで人間のふりを続けたいのかと思うと、ホームレスの姿が頭に浮かぶのだ。もしくは、希死念慮がちらついてくる。

 自分の為の言葉が、物語が終わりでいいと思ったならば、後は生きることなんてもうグリコの「おまけじゃない方」みたいなものだ。

 たまたまだが、FF9のウィキを見ていたら、ビビという黒魔道士のセリフが改めて胸に来た。彼は冒険の途中で、自分が作られた兵器であり、だいたい一年で時が止まることをしってしまう。実年齢で言うと、大体10歳位の素直で可愛らしい男の子。



生きてるってこと証明できなければ死んでしまっているのと同じなのかなぁ…


 でも、彼は自分なりの答えを見つける。それはゲームの中の話だからだろうか? これについては違うと、はっきりと思う。どんなに屑な自分を認められなくたって、一生懸命で来ていたら、何かの意志を持って生きて行けたなら、答え、とまではいかなくても、覚悟は決まるだろうから。

 何もかもが出来ずに、何もかもが嫌で眠り続けていた。幾らでも寝られた。でも、そんな風にしても金はかかり、俺は老いて行く。色々な物を忘れて生きていけるのだと思っていた。でも、まだもうちょっと頑張れるような、もう少し色々知りたいような気がして来るんだ。その方が、きっといい。嫌なあれこれについて考えるよりも、好きな事について考えること。それはきっとある人にとってはとても困難だけれど、そうでなければきっと、生きている意味なんて無いと思う。

 ツタヤが一か月無料レンタルをしていたのでとにかく映画を借りまくっていた。無料期間だけにしようかと思っていたが、また月を空けて利用しよう思う。

 久しぶりに『アルファヴィル』を見た。カリーナが可愛いだけの映画見えた。あ、言い過ぎました。でも、アンドロイドみたいなカリーナはとてもかわいらしい。

『ジェーンバーキンのサーカスストーリー』はジャックリベット監督で、最近のジェーンバーキンの演技がみられる映画。彼女の飾らない姿はとても魅力的だし、ショッキングな事実はあっても 特別なことが起こるわけではないのに、最後までさらりと見られるのはさすがという感じ。

ミトン+こねこのミーシャ〜ロマンカチャ―ノフ短編集〜』はあのチェブラーシカの監督のコマ撮りアニメーション作品で、とにかくかわいらしい。ロシア語久しぶりに聞いたなあ(映画でしか聞いたことないが)。時間も短いし、とにかく愛らしい。CGアニメは苦手なのだが、こういう素朴な技法のアニメは大好きだ。

同じくくり、というわけでもないがヤン・シュヴァイクマイエルの『ファウスト』を見る。こういう可愛らしさと気味悪さの共存はこの監督ならでは。とても楽しく最後まで見られた。

 でもドグラマグラのCGアニメーション映画は、久々に見たアマゾンレヴュー☆一つ! という評価の作品で、本当に何から何まで低クオリティで、ある意味面白かった笑

 ヘルツォークのドキュメンタリーで見てないのがあった! と思ってみたら、肩透かしだったり。スキーのメダリストの作品のは、得意の皮肉と選手自身の斜に構えたしかし素直な感想が撮れていた秀作だったのだけれども。

 STUDIO4℃の『ディープ・イマジネーション-創造する遺伝子たち』はアニメの短編集で、10分程度の作品だからサクッとみられていい。あと、制作者それぞれのカラーが出やすい感じがいい。日本のいわゆるアニメとはまた少し違う感じと言うか。おそらく地上波で12話放送されるのとは違う作品という感じ。ガラクタが成長してしまう近未来の作品が面白かった。

 ミヒャエル・ハネケの『愛・アムール』はハネケだからと身構えていたのだが、あの人をぶん殴るような真面目でいじわるで洗練されたハネケ作品の中ではある意味異彩を放つ愛がテーマの「見やすい」作品かも。

 テーマは老夫婦の話で、音楽家の夫妻、その独立心がありしっかりした妻が重い病にかかっても「二度と病院で入院なんかしたくない」という言葉に従う夫。で、老人が壊れて行く老人を介護するという重いテーマなのだが、いつもの観客を刺すような描写もありながらも、登場人物の真面目で人間臭い態度からか、すーっと楽に見ることが出来た。

 他にも、どうでもいい映画を沢山見た。感想なんて出ない物、流し見で見た物。

 そうだ、俺は無駄遣いをしていなかったなあと思った。欲望もない金もない生活で、ただ薬と惰眠で腐っていたけれど、それよりもきっと、色んな無駄遣いをする勇気の方がずっとマシだろう。

 これが空元気だとしても、明日になるのが嫌だとしても、でも、こうやってごまかしながらも、ふと楽になる瞬間を繋いで、少しはマシな作品を作れるような気力や姿勢が作れたら。そう、自分の人生に対して素直になれたなら。先はいつまでか分からない。急がなくてもいい。でも、しなければならないんだ、俺。