お前の頭ハッピーセットでデビル未満

 誕生日を迎えてしまった。二十代の頃は、三十代になっていたら死んでいるか気持ちだか人生だかが安定しているのだろうか、等と人ごとのように考えていたのだけれど、どうやらそういうのは訪れず、ずるずると、しぶとくみじめに生き延びていて、数年後、四十歳に自分がなるとしたらまたそんな感じなのかな、と思うとげんなりする、というよりかはもう、どうにかしなくっちゃ正気でいられる自信がない。諦めてしまうとか生き生きとした日々をおくるとか、そういうのがいい。そういう日々にしないと。死んで終わりなんだから、その間は、できるだけ多く良い一日を。

 なんて思っていても、惰性惰眠に飲まれる。過ぎていく日々。

 誕生日には無駄遣いをしなければならない。無駄遣いの下品な行為の残虐な行為の愛の言葉の口実欲しいんだ毎日毎日。そう思ってはいても先立つものがないわけで、しかし家にいるなんてまっぴらで、ぐずぐずとしているうちに日は回り、何の感慨もなくパソコンでタイプしていると電話が鳴った。

 ぎょっと、しながらも反射的に出てしまう。

 それはお世話になった先輩からの久しぶりの電話で、急なことがあって、現場に入ってくれないか、という頼みで、一瞬迷ったが、すぐにそれを受ける。久しぶりに六時起きでおきれるかなーって思いながらも、心配しているならば起きれちゃうんだよね。リラックスが苦手だけど、約束の時間は守れる俺。

 朝起きて、駅に向かう道。少し、ひんやりとしながらも日の光が身体に心地よく、ふと入った視界には山吹の黄。朝っていいなと久しぶりに身体が、そう思う。

 great3の『素敵じゃないか』がイヤホンから流れる。

 

 

愛されたかった いつでも 愛されたかった こんなに
泣いちゃいそうなくらい 素敵じゃないか

"このくらいのことができない?"なんてさ
小さな頃から言われ続けて なんだか誰かに愛されるなんて あぁ
そんな資格ない そう思って ひとりぼっちだった
誰を抱いたって ただ泣かせるだけで
最後は幸せに できやしなかった
でもこれからは違う そうなんだ

愛されたかった いつでも 愛されたかった こんなに
泣いちゃいそうなくらい 素敵じゃないか

 

 動画はなかった。でも、彼らの曲ならなんだって好き。好きな人らの曲をいつでもきけるなんて、うんざりする位幸せで、正気じゃいられないね。音楽とか美術とか、そういうのがあって、みんな法を順守しているのきちがいじみていると思う、いや、そうじゃない多分俺が知らないだけなんだ見ていないだけなんだみんなの乱痴気騒ぎ。

 

 

「悪意に満ちた言葉の その否定の強さに惑わされるなら

 己だけを崇めて 憧れなんてすべて捨てるんだ」

 GREAT 3 - I.Y.O.B.S.O.S.

 

 

 新兵のように前向きになれる。いつでも、何歳でもどんな病状でも正気でも、新兵のような気分。ってことにして。いつでも、大したものを持ち合わせていないのにいっちょ前のふり。楽しいふり。よきかなよきかな。

 駅で先輩に会うと、「あーマジありがとねっ」てノリで、朝ごはん食べたって聞かれて、食べましたって答えたんだけど、じゃあ朝マック行くかってさ、俺がどう言ってもマックに行くのは決まってたんだよね。

 とても賢い岩澤瞳ちゃんが「一週間マック食べたら人を殺したくなる」って言ってたと思うんだけど、それは学会に提出すべき論文の草稿。だけど、たまにマック食べると俺も工業製品みたいだぜって思えて、幸福だ。まずくもおいしくもない食糧。いや、おいしい、かな? わかんないや。だってさ、俺の頭ハッピーセットだぜ。

 現場で仕事する。単純作業、肉体労働はだるいけど、身体や頭に良い。それに元気なふりをしていると明るいふりをしていると、何だか自分がそういう人間みたいなきになってくる。これは本当なんだ。明るいフリ元気なふり、毎日した方が良いんだきっと。自分なんてものはない、のだから、健康な時間が多い方が良い。多分。

 昼飯おごってもらって、色々とどうでもよい話をして、今日急遽穴埋めで来て、たいしたことしてないのにめっちゃ感謝されて、そんなことないのになーって、ぽろりと「今日誕生日なんすよー予定ないし金ないし、逆にたすかりましたー」って言ったら、「エーマジごめんねー」からの、おっさん同士しみじみと年取ると身体やばいよねーって話になって、それもすぐどうでもいい話に変わる。どうでもいい話ができるのがありがたいなって思う。

 雑できい使いの先輩が、誕生日に仕事させてしまってるからか、やたらと俺をねぎらってくれるので、映画のデビルマンで、「ハッピーバースデー、デビルマン」って言われた位幸せですよと告げると、先輩マジ「はぁ面」していて、こういう伝わらなくてもいい、雑な会話ができるのが、しみじみありがたいなって思うんだ。

 仕事終わって、また会おうねって言って、誰かにまたねって言うとき、笑顔でも作り笑顔でも、その機会ってないものだけど、先輩とは多分また会うんだろうなって思うと、今日は良い日だなって思って、仕事終わりに寄った繁華街で無駄遣いを何もしないのに、それはそれでよかった、けど、デパートで(値引きシールが貼られた)お寿司とお惣菜を買って、華みやび飲みながら歩いていると、俺の息、少しアルコールの匂い。すぐに俺の頬は熱を持って、ふらふらと、悪くない、悪くないんだって思えてくる。

「愛されたかった いつでも 愛されたかった こんなに
泣いちゃいそうなくらい 素敵じゃないか」なんちゃって