ヤンキー。優等生、それ以外

色々あって、気分が落ち着かない。それでも、やらなきゃいけないことはあって、心配事があって、気持ちが悪い方に引っ張られる。まあ、でも、そうじゃない話もある。

 身体動かしてると、ある程度気分転換になって、へとへとになって頭を使うような本が見られなくなる。自由に本を読んだり過ごしたりしたくて、根無し草生活を選んだのだけれど、たまに、その寄る辺なさに何もかもがどうでもよくなって、誤魔化して、何かしら消化や目隠し。

 汗かいて、必死で肉体労働。なまりきった身体には辛いけど、これはこれでなんだかいいなって。身体動かして目の前のことを片付けなくっちゃ。やるべきこと、沢山あるんだ。

 俺が真面目にやってると、いきなり初対面の職人さんに「にいちゃんさあ、スゲー顔してるけど、連続殺人犯にいなかった?」って話しかけられ、思わず苦笑い。でもさ、喋り方で雰囲気で、悪意で話かけているんじゃないって分かるんだ。だからさ、

「マジっすか。俺超善良な一般市民っすよ」って苦笑いで返す。自分で喋りながら「俺は善良だろうか?」と自問自答。すると職人さんも軽口を返す。その後も、折に触れて俺にちょいちょい話しかけてきて、こんなに俺に色々話しかけてくる彼とは、もう会うことはないのにさ、何だかくすぐったいような不思議なような。でも、ヤンチャな感じの、こういうノリっていいなって思うよ。

 多分、俺と気が合う人ってヤンキー(気質)か優等生(気質)が多くって、良い面だけ上げるなら、前者にはノリと情があって、後者には生真面目さと思いやりがある。俺は彼らのそういった要素を持ち合わせているはずだが(たいていの人にあるのだ)、いや、そういう振る舞いができるはずだけど、結局の所ヤンキーにも優等生にもなれなかった。

 昔はそれになりたい、って思ったことがあったのかもしれない。

 何かになって、誰かの仲間になりたかったのかもしれない。

 仕事終わりにふらふらと。近場だからと用もないのに疲れ切った身体で浅草雷門へ。仲見世の、うさん臭くてざわついた雰囲気はとても好き。ごちゃごちゃしていて、よく考えれば欲しい物なんてないのに、なぜだか魅力的に映る。特に外国人向けのチャチなお土産が好きだ。JINBEI を着たマネキンは頭に「神風」と書かれた日の丸ハチマキをしめている。クールジャパン!

 修学旅行生の白シャツとグレー(千鳥格子)のボトムスを見ると、若さに溢れていて可愛らしく映る。慣れない地をゆっくりと歩く学生さんは何にわくわくしているのだろうか。

 二人組の男の子の一人が 春はあけぼの の調子で「春はあげぽよー」と言っていて。意味わからんし阿呆でかわいいなあ、と思ったが数秒後に本当に彼は「春はあげぽよー」と口にしたのか自信がなくなる。俺は耳が悪い。それにティーンの子が「あげぽよー」なんて言うか? 考えれば考えるほど自信がなくなる。かわいい、可哀相なのは俺の脳ではないかという思いがよぎると少しだけ落ち込む。

 面倒事やら色んな事が一気に降りかかってきて、どうしようかなって思う。ふと、好きなアニメの言葉を思い出す。

「やるべきことがあったら、できそうになかったとしても、戸惑ってしまっても、覚悟を決めるの。そしたら気持ちが楽になるわ」

 かなり朧げだが、こういう趣旨のことを言っていたはずだ。大切だ、覚悟を決めること。受け入れること。悪いことなんて不安なんてありまくるんだから、それに拘泥し続けるなんて居心地がいい。そんな甘えばかりじゃあだめだよね人生。

 しょっちゅう心が折れる。ああ、もう頑張らなくていいのかなって思う。でも、何度も再生できるんだ、ってことにして。

 ある人と、色々と話して、その人のおすすめのアニメを教えてもらった。その人は自然な気遣いができる人で、そういう人といると俺も自然にそういう振る舞いになる。

 ほんとさ、俺、その場その場で誰かのように振舞うんだ。かっこ悪いね。でもそういうかっこ悪い処世術、誰も彼もしてるかも。そんでさ、ノリいい人にノリで返したり、思いやりがある人にこちらも気遣ったり、そういうのはいいことだと思うよ。あいてとたまゆら、空気の交換。

 教えてもらったアニメの題名をパソコンに打ち込み、PVを見ると、あっ、いいかもって思って、即ネットフリックスに入会。

キャロル&チューズデイ

火星のハーシェルシティの富裕な家に生まれた少女・チューズデイは愛用のギターと家出。首都のアルバシティに着いたものの荷物を盗まれ途方に暮れる。チューズデイは、アルバイトをしながら、路上でキーボードで弾き語りをしていたキャロルと知り合い、彼女のアパートに転がり込む。意気投合した二人は一緒に曲を作りミュージシャンを目指す。

 

 という内容で、少し未来の、住めるようになった火星(近未来アメリカ的な雰囲気)でのガールミーツガール。話の筋は分かりやすい感じでテンポよく進む。少し未来の世界におけるコンピュータやらガジェットの描写が楽しい。女の子同士が意気投合して、問題はありながらも夢いっぱいな感じもわくわくする

 そしてなにより、歌が曲が良い。二人でセッションして、曲が生まれる感じとかを尺をとってしっかりと描写しているし、アニメも曲も力が入っていて引き込まれる。

 これ作ってるの、俺が大好きな「坂道のアポロン」の監督だと知って、納得した。ほんと好きなアニメなんだ。若者の恋や青春はもちろん、音楽をしっかりと描いてる。力を入れたアニメーションでセッションしてたシーンを思い出せるんだ。ああ、作ってる人も登場人物も音楽が好きだって分かるんだ。とても素敵なんだ。

 俺にキャロル&チューズデイを教えてくれた人に、好きなアニメは「坂道のアポロン」って伝えたんだ。その人は見てなかったけど、きっと、見たら気に入るはずだ。どっちも、登場人物が、音楽が好きだから。

 アニメの中の彼/彼女たちの大きな冒険。視聴者の俺に灯る小さな火。そういうこと、考えていかなくっちゃなって。

 諦めるまで、誰かのことを、好きな誰かのことを、死んでたり生きてたり生命がなかったりする誰かのことを考えられたなら。