日々小銭

久しぶりに決まったそこそこきちんとした仕事だったのに、辞めた。色々悩んだのだが、面接の時の説明と違うことがあって、どうしても無理になってしまった。求人や面接での説明と現場は違う。なんてこと沢山あったし、俺に限ったことではなく、働く人あるあるなんだと思う。

 そう思って、どうにか頑張ろうと思ったが、頑張れなかった。無理して頑張るのがいいのか、さくっと辞めるのがいいのか、それは難しい問題だ。でも、申し訳なさと不満を抱えながら面接をしてくれた人に退職の説明をしたら、その人がきちんと謝ってくれて、それだけでよかった。ありがたく、申し訳ない気持ちがわく。当然のことなのかもしれないけどさ。

 でも、そしたらまた仕事探し。日々やりたいこととかやるべきことよりも、日銭稼ぎのことばかり考える生活。生きるための、テンションが上がらない。なんだか、俺、穴の開いたタイヤに空気を送り続けているような、穴の開いたバケツで水を汲んでいるような。

 でも、なにがあったって、どうであれ、俺が諦めたらそれでおしまい。早く、終わって欲しいなあとおもいながらも、まだ頑張らなきゃって。わかんないけど。色々分かってないけど。

 そんな時の日銭稼ぎ肉体労働は、なかなかいい。余計なこと考えてる気持ちの余裕なんてない。言われたことをひたすらこなさなきゃいけないんだから。

 それにしても、まだ五月なのにさ、暑すぎる。マジ、ダメになりそう。

 ダメになるって、ほんとのとこは分かんないけどさ。分かりたくないけどさ。

 次の現場まで時間あいて、渋谷から歩いて青山ブックセンターへ。普段見ない荘苑をパラパラ見ていたら、荘苑賞の作品と選評が載っていた。ファッションは好きだけど、自分はもうそういうのとは違う世界だ、なんて思いながら、何気なく見た。

 自分に刺さった、というわけではない。なのに、あーすごいなあと感じた。頑張っている人がいて、審査している人のコメントも真剣で手厳しく的確だ。頑張ってる人見ると、やっぱ、いいなって思う。知らない人、会うことがない人、どっかでめっちゃ頑張ってる人いるんだなって。

 そんで次の現場で、言われて気づいた。五年ぶりくらいに会った人。最初は知ってるって言われても「あ、たしかこういう人と仕事したっけなあ」くらいの記憶しかなかったんだけど、音楽の話、バンドの名前を出したら、急に記憶が蘇った。マジ音楽最高。俺の記憶力最低。

 連絡先だって知らないし、五年ぶりくらいに会ったのにさ、趣味の話したらすぐに盛り上がれる。こういうのっていいなって思うんだ。

 最近好きなバンドは? って聞いて、教えてもらった。その場で名前メモして、家で検索するよって伝える。

paionia - 東京 

 

 

 野太いボーカルに、ぐっとくる歌詞とメロディ。ああ、いい曲だなって思った(家に帰って検索した)。

 駅前で別れる間際、彼が最近ニューウェイヴのアーティストを聞いているという話をしていて、それじゃあ、と俺が超好きなトータスを紹介した。トータスはニューウェイヴじゃないけど!

 彼、すぐに検索してくれて、スマホにはtntのアルバムジャケが表示されていて、その場で「じゃあ」と別れた。

 Tortoise - TNT [Full Album]

 

 ふっと、気が楽になって。それも明日には消えてしまうような、か弱い灯だけれど、ありがたいなたのしいなって思って。

 嫌なことが色々あったとして、色々どうでもよくなったとして、でもさ、こういうこともあるんだって俺も何かできるんだって思うよたまに。