観客のいない綱渡り芸人

色々悩んでいて、もう少し頑張ろうもう少し頑張ろうとしていたが、仕事を辞めた。突然やめる俺は悪いが、とても許せないことがたまっていて、さすがに限界だった。ふつう、の人なら我慢したり流したりできるんだろうけれど、駄目なんだ、俺。

だめなんだほんと

このいろいろとヤバイ年末年始、職探しは大変で、色々頑張っても手ごたえは無くて落ち込む。ずっと、仕事を探して金を探して心配をして、そんな日々。薬や他人で誤魔化して生きる人生。

 と、自己卑下してしまうのも何度目か。厭世観が、古びて似合いの外套の様に、俺の肌にぴたりと合うのだ。

 なのに、たまに前向きにもなる。数十分や数時間で気分が変わるのが我ながら恐ろしく、おそろしく疲れる。先のことなんて分からない。観客のいない綱渡り芸人をいつまで続ければいいのだろう。

 ずっと、きっとそうだ。だから、かっこつけられますように、美しいものを前にしてたじろぎませんように。マッチの火のような自分の幸福を、大切にできますように。

これからの生活が不安定で、色々うまく行ってなくて、気持ちがぐらぐらしまくっていた。でも、ハレルヤコーラスを聞いて、ちょっとだけ脳味噌デフラグ、クリーンアップ。自分の不幸や不安を願うより、他人や神様の幸福について考えられるような人間になりたいな

 

クリスマスには虚しい、哀しい思い出ばかりなのだが、街のクリスマスグッズや盛り上がりはかわいくて大好きだ。クリスマス(冬)の話も。幸福の王子、マッチ売りの少女、コオリオニ(漫画)。読んでいると、とても辛くて美しくて泣いてしまう。どんな人にもきっと、蠟燭の火のような幸福があるのかな

これらの作品がとても大好きなのは、愛(を求める)の物語だからだと思う。必死で愛を求めたり、探したり尽くしたり。それが哀しい結末であっても、登場人物達は、ツリーやステンドグラスや蠟燭の光のように、痛いくらいに輝いている。手に入らないとしても、彼らの美しさは本物だ。一時の幻でも、本物だ

漫画版の『銀河鉄道の夜』読む。宮沢賢治の話は、優しさの為に、多くの物をなげうってしまう。読んでいて思わず泣いてしまう。彼の他の本も読み返したいけど、今はそんな時期ではない気がする。彼の童話はきっと、明日を生きる力がある人が読む方が良い。俺は目の前の事を片付けながら動物の幻想を追う

ジャッキー・モリス『ソロモンの白いキツネ』読む。シアトルで暮らす12歳の少年ソル。幼くして母を亡くし、父は忙しい。学校では黒い髪と瞳でいじめられる。そんな彼は、波止場で白いキツネを発見して……
子供向けの児童書だと思うが、祖母、親や子どもの寂しさ悩みの歴史がきちんと語られている

キツネを北の自然に帰そうと車を走らせるのだが、父が息子に狐の名前を尋ねる。息子、ソルは「ぼくのキツネじゃないんだよ。飼いならされなり、しない野生の動物なんだから、名前はいらない。少なくとも、ぼくがつけるような名前じゃだめだ」と返し、父は母がつけたソロモンという名前は正しいというのだ

ルドンのカタログ『ルドン ひらかれた夢』読む。ルドンに向けられる神秘や幻想という形容を自分なりに定義してみると、それは人造だと思う。生々しさや力強さや恐怖というよりも、ルドンの画には新生物に出会ったような驚きがある。作り物の、物語、生命。誰かが出会った、めまいに出会える

ディック・ブルーナのデザイン』読む。彼の言葉「デザインはシンプルであることが一番大事。完璧であるだけではなく、できるだけシンプルを心がける。そうすれば見る人がいっぱい想像できるのです。これが私の哲学」あーマジでかっこいい。この本では初期の彼の手がけたデザインも沢山収録されて

いて、60年代ヌーヴェルバーグの映画のポスター(実際に60年代に制作された)みたいなのもあって、すごく好みだ。シンプルというスタイルが、見るものに豊かなイマジネーションを届けてくれる。御本人も、とってもキュートな人で素敵。

何気なく買った、シャーリーテンプル2012秋冬の載ってる雑誌読んだら、めっちゃかわいい。キュートで元気で上品な感じ。子供服って、成長してサイズ変わるし耐久性も求められるから、安いの買い換えるのが主流らしいのだが、その真逆の高くて良いものをって作り手の精神がいいなー。かわいい

気になってはいたけれど、読まずにいた『ポーの一族 春の夢』読む。あの頃、の世界をどうしても求めている自分を抑えながら読んでいて、自分の想像上の 身勝手なポーの一族 とは違っていたけれど、彷徨う彼ら、宿命と共に生きる姿はやはり美しかった。アランがいいとこなしなのが、個人的にはツボ

『魅惑のアンティックカメオ』読む。優れた技術の西洋絵画は、そこまで好みではない。だけど、なぜかカメオが大好きだ。もしかしたら、神話や偉人のモチーフだけを掘り出すことにより、受け手に空想の余地があるからだろうか。カメオにはアメシストやエメラルドのもあったが、やはり白いのが好き。

体調悪いのに漫画版の正岡子規『病床六尺』読む。原文は耐えられないと思ったが、漫画版も読みやすくてよい。病人、病気は全て異なるが、多分皆視野狭窄でエゴイズムに支配されて気分に振り回され、何より、辛いのだ。でも、何かが救いになる。その人にとっての創造、創作で人間性を取り戻すのだろうか

高峰秀子『台所のオーケストラ』また読む。大女優高峰の、お気軽レシピ集。優しい文章からは、彼女の食への好奇心と愛する夫への献身が伝わってくる。生活の基本は、美味しいものを食べること。というか、食べ物とか見るものの良さを感じ取ることって大事だな。俺は出来ていないけど、この本は優しい。

ルノワールの犬と猫 印象派の動物たち』読む。二十代の頃は、刺激的な作品が好きだったが、三十過ぎて、やっと印象派の良さが分かってきたかもしれない。人々の生活の豊かな表情と、動物の姿が重なる。飾らない姿、生き生きとした姿。見ていると親愛が伝わってくる

ヴァレリー詩集『コロナ(冠の意味)/コロニラ』読む。晩年のヴァレリーが最後の恋人に当てた手紙に同封された詩。紆余曲折あり、死後に一冊の本として出版された。文学的価値があるとはいえ、恋文を盗み見ているようなもので、俗っぽさもある。けれど、優美で流麗な文の流れにはっとする。問題作。

エロール・ル・カイン絵『1993年のクリスマス』読む。世界中にプレゼントを送るサンタさん。だけど最近はどうもやりにくい。駐車違反で取り調べ、本物のサンタか証明を求められる、麻薬密輸の疑いで足止め……ちょっとブラックなコメディ。子供向けではないかもしれないが、ル・カインの絵は素晴らしい

泉鏡花『月夜遊女』読む。漁師が鮟鱇を届けに行く途中で、中の肝を密かに抜いてしまおうとする。そして、中から出てきたのは妖しい美女で……泉鏡花のいつもの美女怪奇幻想物語なのだが、やはりその文章の美しさにうっとりする。似たような話でも、彼が書く文はいつも美しくてぎょっとしてしまうのだ

天野可淡『復活譚』写真 片岡佐吉 
読む。球体関節人形の中でも、彼女の作品が1番怖い。アンナ・カヴァンの小説を思わせるような、不安へのオブセッションを感じる。人形達は安定しない。小さな身体に閉じ込められた不安。それを見つめる時ふと、気持ちが楽になるのは、彼女たちに呼応しているからか

渋谷Bunkamuraギャラリー ベルナール・ビュフェ回顧展行く。正直、あんまり好みの画家ではないのだが、行って良かった! 細い線の画の記憶しか無いが、実際の彼の画は、年代で変化、進化していて、その歴史を見られるのが良かった。ポスターの画も、当たり前だが実物の方がずっと良かった

偉そうな言い方だが、画風がへんかしながら、後年になるにつれて、明らかに画が良くなっていくのを見られるのは楽しかった。回顧展の良いところ!特に、花という題の橙のキンセンカを描いた具象画が、彼のらしくはないが、生き生きとした花で良かった

銀座の鳩居堂で、来年の干支の土鈴を買う。前までは、店に入ると和紙の匂いがして、幸福だった。今はマスクのせいかよく分からない。
大した買い物はしてないけれど、いつ行っても、店員さんは丁寧な対応。あ、ここも手提げ無料だった。数円だけど、店の好感度上がるから皆すればいいのに

銀座エルメスで短編映画三本見る。移民や金銭的、精神的等不安定な人々の生き様、触れ合いが描かれている。そんな彼らの小さな嘘、幸福。
三本で一時間という短さで、ここで終わり?みたいな感想も浮かぶが、現実生活も都合の良いオチがつくわけではない。映画の登場人物達も、一時の触れ合いや幸福

の繰り返しで生活を送っているのだ。マッチ売りの少女のごとき、或いは綱渡り芸人のような生き様。辛さも幸福も、きっといなくなったりはしない。見つけられるように、手を伸ばせるように。誰もが持つ処世術を、投げ出さないように。

 

 

 

植田正治の写真集を何冊か読んでいた。砂丘シリーズ(?)は勿論素敵なのだが、ちびっ子達のなんだか不機嫌だったりニヤニヤしてたりぼーっとしていたり、子供の生き生きとした表情をとらえるのも上手いなあ。構図へのこだわりと共に、人、被写体への愛情と好奇心を感じる

初期の詩を中心としてまとめられた、『萩原朔太郎詩集』読む。初期の方が、ユーモラスであったり自然や動物の姿をみずみずしくとらえたものが多いようだ。それでいて、そこにも倦怠や死や腐敗や寄る辺なさが内包されている。彼の言葉は、ひんやりとして美しくて、ぞっとする。

萩原朔太郎 詩集・散文詩集『宿命』読む。後期に発表されたものをまとめられたらしいのだが、そのせいか、陰鬱退廃貧困怠惰が幾重にも重なり、彩る。情熱の自殺、或いは剥製の硝子玉の眼球のごとき、閃きと野生とを感じる。死と生命が詩人を鼓舞するのは、哀しい美しさのようだ。

ちひろアンデルセン』読む。ちひろの絵本は小さい頃から読んでいた。でも、大好きという訳ではなかった。アンデルセンも読んでいたが、彼の作品は好きだ。多分、哀しい結末が多いからか。ちひろの絵は、優しい。だから、マッチ売りの少女の絵を見て胸が締め付けられた。短い、暖かい夢を、俺も見る

海野弘解説『ポスター芸術の歴史』読む。ポスターは、人々にメッセージを伝えるように作られている。つまり、シンプルでインパクトがあった方が望ましいだろう。そんなポスターの中でも、イラストレーションとしても優れているポスターが多く収められている。はっと目を惹く作品が多く楽しい

カレル・チャペック1937年の戯曲『白い病』。戦争目前の世界で、謎の奇病が蔓延。死をもたらす疫病の特効薬を、町医者が作る。彼は戦争の放棄を条件に、万人に薬を与えたいと言うが……今だから、というわけではなく、とても読みやすく優れた作品。意見の違う誰かを悪者にして排除するのは、本当に愚か

『なんたってドーナツ 美味しくて不思議な41の話』早川茉莉編、読む。作家やエッセイスト達の、ドーナツについての短い話。久しぶりに植草甚一武田百合子の名前を見る。ドーナツって気軽なお菓子だけど、人によっては特別な物だったり家庭の味だったり。それぞれの記憶に触れるのは楽しい。

 あまり本を読めなかった。なにより、小説が書けていない。仕事もない金もない。とても焦るし、かなり最悪な状況かもしれない。一日の内に何度も何度も落ち込む。ぐっと、気を入れなおしてどうにか立て直そうとする。

 自殺のニュース、困っている人たちの話題が目に入る。彼らに優しくなんてできない。自分に余裕がなければ、人には優しくできない。でも、たまには誰かに優しくできますように。平気なふりをしていたら、たまにはそんな錯覚もできる時があるから。

 綱渡り芸人が、誇らしげに、誰もいない観客席に向かって微笑めますように。